ほらり

久保田郁也:ゼロからの挑戦、自分だからできること

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約8分

——自己紹介をお願いします。

別海町観光協会の久保田郁也です。1995年生まれで、出身は東京の⻘梅(オウメ)市です。昔から旅行が大好きで海外・国内ともに多くの場所に行きました。国内は47都道府県制覇していますが、1番北海道が大好きで、いつか住みたいなと思いながら、何度も旅行で来ていました。今、こうして北海道で生活していることに喜びを感じています。

私がこちらに来るきっかけは、昨年世界中で流行したコロナウイルスでした。当時、私は旅行業界で働いていましたが、コロナウイルスの流行で大打撃を受けたんですよね。その時に「このまま働き続けても、自分が思い描くような仕事ができるのか?」と疑問に思い、転職を決心したんです。その際、たまたま転職サイトで出会ったのが「地域おこし協力隊」という制度でした。一目見て「こんなにも自分に合った職業があるのか!」と衝撃を受けました(笑)。前職でのノウハウも活かせるし、自分の好きな北海道に移住できる、これ以上のものはないなと思い、協力隊になることを決めました。

地域おこし協力隊の募集は道内各地でありますが、候補地を絞るために2つの条件で探しました。1つは北海道らしい大自然のあるところ。もう1つは、いつか生まれる子どものために、子育て支援に手厚いところ。色んな市町村がありましたが、その中でも目に留まったのが別海町でした。実は北海道にはこれまでに50回以上仕事やプライベートで来ていたんですけど、別海町には来たことがなかったんです。すぐ近くの知床には20回くらい来てたんですけど(笑)。これまで知らなかった別海町という、まったく新しい所で「ゼロから自分を試したい」と思い、この町を選びました。

——今はどのような任務を遂行されているのですか?

別海町観光協会の運営を任されています。具体的には観光キャンペーンの企画・運営をしたり、観光などの情報をSNSで発信したりしています。現在観光協会専属の職員は2人体制なので、大変なこともあるけど、やりがいを感じています。

特に今一番力を入れていることは、前職の旅行会社で働いていた時の経験を活かして、自分が一から企画しました「べつかい宿泊割※」です。前職の旅行会社で働いていた時の経験を活かして、自分が一から企画しました。これを考えたのは、コロナ禍で大打撃を受けた宿泊業者さんや事業者さんを救済したいという想いからです。

※べつかい宿泊割:宿泊代によって3,000円か5,000円の割引きに、2,000円クーポンがついてくる。

この事業には表のテーマの「宿泊業者さんや飲食業者さんを応援したい」というものと、 もう1つ、実は裏のテーマがあるんです。裏のテーマは、これまで町に来たことのない方に割引サービスを利用して来てもらい、町の良さを自分で体験してもらうことで、コロナ後にもう一度別海町に足を運んでもらう「関係人口づくり」がテーマになっています。1度の来町で終わらず、その後も何度も来てもらえるきっかけの一つになればいいなと思います。ちなみにこの宿泊割自体は道内各地でやっていますけど、割引率は別海町が1番だと思いますよ。道内在住の方のみ対象の割引で、来年2月までの期間で すが、普段泊まらない所に泊まって、別海町を楽しんでもらえれば嬉しいですね。

——やりがいを感じながらお仕事されているんですね。ご家族に別海町の協力隊になることを伝えた時の反応はどうでしたか?

両親には求人を見つけた時に、「これやるから」って言いましたね。うちの親は放任主義なので、「おぉ良いじゃん」「やってみたら?」と採用前から応援してくれました。当時交際中だった妻には結婚前から「将来は北海道で暮らしたい」と伝えていたので、地域おこし協力隊で北海道に行きたいと伝えた時も反対はなく、「いいじゃん」と言ってくれましたね。でも別海町っていうのは結構ぎりぎりまで伏せてました(笑)。最初の頃は「札幌の近くじゃない?」ってごまかして(笑)。小樽とか富良野とか、キラキラしてるところを想像してたみたいですね。こちらに来る3か月くらい前に別海町なんだよーって伝えました。自然の多い、いい所だよって(笑)。

3月の終わり頃に車で茨城を出て、北海道まではフェリーを利用してやってきました。フェリーの港がある苫小牧までも結構遠かったんですけど、そこからの道のりが思っていた以上に⻑くて大変でした。やっと釧路まで来て も「まだ1時間半あるのか……」と。北海道の大きさを改めて感じましたね(笑)。

こちらに着いて最初に役場にあいさつに行ったのですが、皆さんが笑顔で迎え入れてくださって嬉しかっ たです。時期が時期だったので、草も何もなくて、少しだけ雪が残っていている状態で、第一印象は少し寂しいところだなと思いましたが、念願の別海町に来られて気持ちはワクワクしていました。

——実際に暮らしてみて別海町はどうですか?

どこに行っても人混みはないし、都会を求めないのであれば住みやすい町ですね。あとやはり漁場が近いからか、スーパーで買った魚や刺身が東京とは比べ物にならないくらいおいしいことに感動しています。外食のレベルは都会の方が高いかもしれませんが、自宅でおいしいものを手軽に食べられるのは、この町ならではだと思います。それから面接の時からたくさんの方に「肥料のにおいがきつい時があるから気を付けてね」と言われていたので、夫婦でかなり構えていたんですけど、全然問題なかったですね。自分たちの鼻が悪いのか何なのかよくわからなんですけどね(笑)。

あと本当に町の方々が優しい方ばかりだと思います。自分のイメージ的に地域おこし協力隊って、そのまま役場に入るので、よそ者というか、なかなか受け入れてもらえないのではないか、なじめないのではないかと思っていたんです。でもその予想は見事に裏切られましたね。町⺠の方々は初めから優しくしてくれるし、笑顔で迎え入れてくれて、本当に温かい方ばかりで嬉しく思います。

——人との距離感が近いんですかね?

そうかもしれませんね。東京では見かけなくなったご近所付き合いもあるし、本当に昔ながらの人との繋がりがずっと残っている感じがします。自分の地元の⻘梅は、東京では田舎の方なんですが、近所付き合いはほぼなかったですからね。高齢な方々はあるかもしれませんが、30代・40代は無いに等しい。そういう向こうではなくなりそうな文化も、こっちだと普通にあることが素晴らしいと思います。役場の方からアキアジ(鮭)などのお裾分けを頂いたり、こちらも何かあればお裾分けする。持ちつ持たれつの関係性で繋がることができるのは、この町の良い所です。

——町の暮らしで不便なところはありますか?

大きな商業施設が隣町に行かないとないことは、ちょっと不便ですね。町内に大きな商業施設があれば何でもすぐ手に入りますから。洋服屋さんもあまりないので、ネット購入が多くなりました。あとは高速道路が近くにないことが不便かなと感じます。こちらに来てから近場の観光地は行き尽くしてしまって、他に行こうってなるとオホーツクとか2時間以上車でかかるところになりますよね。東京で言えば群馬とか、なかなか日帰りでは行かない距離になるので、高速道路が近くにあったらもっと手軽に行けるのかなと思います。

——休日はよくドライブに行かれるんですか?

そうですね。最初の頃は休みごとにあちこちドライブに行ってました。今は季節的にどこに行っても少し寂しいのであまり出かけていませんが、紅葉の時期は阿寒に行ったり、知床・ウトロ、釧路、網走などにも行きましたね。行ける範囲は行った気がします。

それから、こちらに来てから自宅の庭で家庭菜園を始めて、休みの日に色々手入れをしていました。東京の家は、庭があったとしても家庭菜園ができるほどの広さはないので、なかなか広めの庭付き物件を役場の方から紹介された時は驚きましたね。普通のアパートタイプの物件を紹介されると思っていたので、余計に嬉しくて(笑)。キュウリにナス、トウモロコシなどを育てました。自分の家庭菜園で育てた野菜を、そのまま自分の庭でBBQで食べることができるのは、広い土地のある町ならではだと思います。

——では最後に、将来の抱負を教えてください。

協力隊の仕事としては、別海町の観光を盛り上げるという目的で来ているので、野付半島や氷平線※、牧場風景などの元からある観光資源にもう一歩踏み込むような、付加価値を加えるような企画を作っていければと考えています。

※氷平線:野付湾の内海が凍ることにより現れる一面銀世界の絶景。

例えば野付半島だったら氷上ウォークツアーにプラスして、歩いて行った先で何か体験できるようなものを企画したり、氷平線の上を自転車などで疾走できるようようにするなど、これまでの従来の観光にストーリーを付けて盛り上げていけるようなお手伝いをしていければなと思います。

個人的な将来の事はまだ未定ですね。自分はずっと住み続けたいと思っていますが、妻の気持ちも大事にしたいし、この先どうなるかはホントにその時にならないと何とも言えないですね。でも初めての子育ては別海町でしたいと思っています。福祉牛乳※などのおもしろい福祉政策や、子育てに手厚い政策があるからこの町を選んだわけですし。自然豊かなこの町で子育てできるといいなと思います。

※福祉牛乳:町内に居住している高齢者や妊産婦、障がいのある方に対し、健康増進のため、毎週ひとり5個の牛乳を配布している。

新酪農村展望台にて
取材日:2021年11月5日
取材場所:別海町交流館ぷらと
インタビュー・文:原田佳美
写真:NAGI GRAPHICS
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