別海農産物組合・べつかいらーべじ(betsukai lovege)
組合長:高橋秀明(たかはしひであき)さん
作り手:真籠毅(まごめたけし)さん
別海町は冷涼な気候であることから農作物がうまく栽培できず、酪農大国になった所以がある。その一方、北海道らしい広い宅地内に家庭菜園を作り、収穫を楽しんでいる方が多くいるのだが、広すぎる畑から収穫できる野菜は個人消費では追い付かないほど実る。そんな家庭菜園で栽培された野菜を販売する、別海農産物組合べつかいらーべじ(betsukai lovage、以下「らーべじ」)があることをご存じだろうか。
「きっかけは、町内で家庭菜園を楽しんでいる方が多いということを聞いたことと、収穫が多すぎて破棄してしまう野菜がどうしても出てくるということを知ったことです。別海町にはあまり野菜のイメージがないと思いますが、個人的に野菜を栽培されている方が多くいらっしゃいます。私は、町内で栽培された野菜を使って別海町の名物である乳製品と海の幸をつなぐ役割を担うことができればと考え、令和3年度にこの組合を立ち上げました」
と組合長を務める高橋秀明さんは話してくれた。
今年2年目を迎えるらーべじは野菜の作り手4人と組合長である高橋さんの5人で主に活動をしている。
「野菜を作り始めたきっかけは、定年後にしたいことは何かと考えた時に、子どもの頃から慣れ親しんだ農業をしたいと思ったことですね。元々私の父親が酪農を営んでいた頃に作っていた小さな畑を利用して野菜を作り始め、徐々に畑の範囲を拡げていきました。今は500坪ほどの畑で野菜などを育てています。
1年2年と年数を重ねるうちにだんだんと収穫できる量も増え、自家消費では余ってしまう野菜が出てしまうようになっていました。それらの野菜をなんとかできないかと考えていた時に、高橋さんかららーべじの話をもらい、渡りに船じゃないけど、面白そうだと思って参加しました。
今、畑で育てている野菜の種類は40種類ほどで、玉ねぎやトマトなどの定番の野菜や、ヨーロッパの野菜、例えばサンマルツァーノ(イタリアントマトの一種、火を通すとトロトロで濃厚なトマトソースになる)や、ビーツ(ボルシチに使われる真っ赤なカブの一種)、いろいろなハーブも育てています」
と作り手の1人である真籠毅さんは話してくれた。
入会を希望すれば、誰でも組合員になることはできるが、1つだけ守ってほしいことがあると言う。それは自然農法で野菜を育てることだ。
自然農法とは、できる限り農薬や機械などを使わず、なるべく自然に近い方法で野菜作りをする農法だ。その他の育てる野菜の種類や、どれくらい野菜を出品するかなどは作り手に一任し、各々が自由に栽培を楽しんでいる。
高橋さんは組合長という肩書ながら、裏方の仕事も率先して行う。
「私は野菜を作っている訳ではないので、他にできることは何でもしています。例えば土曜日と日曜日の販売をSNSを利用して周知したり、新聞などの取材対応、それから作り手さんが持ち込んだ野菜にバーコードを付けたり、売り子としてイベントに出店したりと、夏の間は土日もゆっくりすることなく動いています。野菜を別海の新たな名物としていきたいので、まだまだやりたいことは沢山あります。
目下の目標は、一人の作り手さんが作っていたヤーコン※を、今年度からすべての作り手さんにお願いして栽培をしてもらっていて、別海で育てたヤーコン、その名も“ベーコン”として売り出すことです」
とプランを教えてくれた。
※ヤーコンは、南米アンデス地帯を原産とする根菜類。1株から3~6kgの塊根(イモ)が収穫できる。デンプンをほとんど含まないことが特徴で、オリゴ糖の塊のような芋として注目されている。また葉も加工することでヤーコン茶として飲用でき、アンデス山脈一帯ではインカ帝国の昔から、果物のような野菜として親しまれている。
「年齢や体調などの事情で今は少し仲間も減ってしまったけれど、これからまた仲間が増えれば、地域の人にももっと喜んでもらえると思います。昨年はみんなで76種類の野菜や果物を販売することができて、お客さんも喜んでくれました。定年退職はしましたが、なにか仕事をしていたいなと思うので、これからも積極的にいろいろなことに挑戦していきたいですね」
と真籠さん。
野菜を購入した方からの評判は好評で、販売期間中、毎週購入に来てくれるお得意様や、近隣市町から足を運ぶ方もいるそうだ。筆者自身、販売開始当初から購入している。
個人的におすすめの野菜は黄色いプチトマト。スーパーで販売している赤いプチトマトよりも甘く味も濃い。1つつまみ食いをしてしまうと、手が止まらずに1つ2つと何個でも食べてしまうおいしさだ。
自然栽培のため、割れ目があったり大きさに少々ばらつきが見られはするが、胃に入ってしまえば見た目は関係ない。どうせ食べるならおいしいものを食べたいと考えている方や、お得においしい野菜を買いたい方、地産地消に興味のある方は、売り場に足を運んでもらいたいと思う。
「野菜をただ販売するのではなく、加工していろいろな付加価値をつけたり、農家レストランのようなものを始めてみるのもいいと思います。1人ではできないことも、いろんな人がいれば、面白いことも始められますよね」
と高橋さんはこれからの行く末を話してくれた。
今年度、市街地で開催される予定の子ども食堂との連携の話もあり、野菜販売にとどまらず町の未来を見据えるらーべじの活動はこれからますます活発になっていくことだろう。利益を求めず、各自ができること、得意なことを発揮して地域貢献を行っているらーべじの活動。興味を持った方はぜひ、仲間に加わってみてはどうだろうか。
らーべじの野菜販売は、毎年7月終わり頃から10月終わり頃までの夏季限定ではあるが、市街地にあるふるさと交流館にて販売されている。また、町内のイベントでの出店などでも購入可能。野菜の販売日やイベント参加などの情報は、らーべじのfacebookや地域おこし協力隊のInstagram、町の広報誌からもチェックできる。
文:原田佳美写真:菊地裕樹