善甫良太:別海でバリアフリーのアウトドアを。

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プロフィール 善甫(ぜんぽ)良太 / 64歳 / 兵庫県神戸市出身 / 2014年移住 / 北海道メナシワールド・ネイチャーガイド、(社)エゾシカ協会会員

大学時代は登山に明け暮れ、卒業後はアパレル企業の営業マンに。

善甫良太です。昭和26年生まれの満64歳、兵庫県、神戸市出身です。現在は『北海道メナシワールド』でネイチャーガイドをしています。

神戸には高校生まで住んでいました。大学進学で東京に出まして、ワンダーフォーゲル部に入りました。北海道に初めて来たのはその頃で、「雨竜沼湿原」など色々な自然スポットを散策していた記憶があります。

本来は大学を卒業したら、日本山岳会にでも入って、山小屋の番人になろうと思っていたのですが、今の妻と学生結婚をして、家族を養っていくために一般企業に就職しました。アパレルの会社の営業マンです。たまたまそこの社長と波長があって、3年目から営業第一課の課長にしてもらいました。北海道には取引先が少なかったので、新規開拓のために一年のうち二ヶ月くらいは北海道にいました。

その時は楽しくて楽しくて仕方がなかったです。すっかり北海道が好きになってしまいました。どこに行っても食べ物が美味しいんですよね。小樽や釧路のお魚は本当に美味しくてびっくりした思い出があります。釧路のデパートのバイヤーに飲みに連れてってもらったことがあって、その時に「お前、そんな格好じゃモテないよ?」って言われたんです。「釧路ではちゃんとネクタイしてくるやつはダメだ。釧路では腹巻して、はちまきして、顔にウロコがついてないとモテないんだ。」って(笑)。

その後、アパレル会社を退職して、工業系の産業会社に転職しました。そこでもメインの営業先は北海道でしたね。

そんなふうに、何かと仕事にかこつけて北海道に来ていました。なので、こちらの人に「北海道の人より北海道詳しいね!」って言われたこともありますよ。北海道はくまなく回りました。知床岬から襟裳、礼文利尻まで。うちの妻も北海道が大好きで、ドライスーツを着て流氷の中を二人で泳いだこともあります。

会社員時代には北海道以外にも47等道府県全てを回っていたのですが、北海道が特に気に入りました。その理由は、やはり「自然」だと思います。特にこの道東(北海道の東の地域)には「手つかずの自然」が残っていました。僕は暑いのが苦手なので、北海道の夏の涼しさ、背筋がピリッとするような冬の寒さも気に入ってしまったのです。

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リタイア後、北海道でネイチャーガイドに。

北海道に移住したいと思い始めたのは、55歳くらいの頃だったと思います。大学時代に自然の魅力に取り憑かれて、いつかは自然と関わる仕事がしたいと夢に描いてきたのですが、「ここまでの人生で何も自分のしたいことが出来てないんじゃないか?」っていう妄想に陥って。リタイアする頃には「ネイチャーガイドをしよう!」と決意しました。

その後、会社をリタイアしてから、実際に北海道に移住することになったのですが、まず最初は札幌方面に住み始めました。そこでネイチャーガイドの資格を取るための勉強をしていましたね。本来ネイチャーガイドに資格は必要ないのですが、北海道は唯一ネイチャーガイドの資格試験があったんです。

資格を段階的に取った後に、ガイドをする場所を探し始めました。自然の中で遊べるところがいっぱいある場所はどこだろう? と探しているうちに、たまたま別海の島崎牧場の牧場主の島崎美昭さんと出会いました。島崎さんに「別海来なよ!」とお声がけ頂いてから、札幌のアパートを引き払って、実際に別海に引っ越してくるまでの期間が一週間(笑)。住宅はもともと島崎さんが使っていた旧光進小中学校の旧教員住宅を提供してもらえたのでラッキーでしたね。

善甫さんのご自宅前にて。ハシブトガラが餌台に餌をつまみに来ていました。善甫さんのご自宅前にて。ハシブトガラが餌台に餌をつまみに来ていました。

身体が不自由な方にもアウトドアの魅力を。

僕は「バリアフリーの体験型アウトドア」を提唱しています。障がいを持った方や、お年を召した方が、健常者と同じように自然を満喫できる仕組みを作りたい。

僕には脳性麻痺の義弟がおりまして、今は施設で暮らしています。以前、僕がその義弟を含めた施設で暮らす方たちを、長野県の白馬に連れていってあげたことがあったんです。そこでキャンプファイヤーをやったりして過ごしたら、とっても喜んでくれて。今までそうした体験を味わえなかった分、健常者よりも「自然の中に行ってみたい!」という気持ちがすごく強いのだと感じました。そういった障がいを抱えている人たちを、自然の中に連れていくのはリスクがあって、それなりの大変さがあるんです。でも「これはいつかやらないと!」と思いました。

ですから、別海に来た時に島崎さんに一番先にお話したのは、「バリアフリーの体験型の観光スポットというものを別海で出来ないだろうか」ということでした。島崎さんは「じゃあ町長に話してみよう!」って言ってくださって、町長も「大いにやってください!」とのことでした。

先日、役場の観光課の方に「別海町の西別川でも風連川でもいいので、カヌーポートを一つ作ってください」と提案しました。カヌーポートを設置するには、やり方次第で数十万円の費用で出来るはずなんです。そして、カヌーポートの近くに、車椅子でも行けるようなテラスを作ってくださいとも伝えました。テラスを作れば、秋鮭が川を遡上してくるのを見物できますからね(西別川は秋になると「献上西別鮭」で有名な鮭が川を遡上する)。その様子を見るだけで誰でも感動できると思います。

お正月に帰省した時に、義弟がいる施設に立ち寄って別海のことを話してきました。そしたら「是非行ってみたい!」って言ってくれて。僕も「こっちに来るなら案内しますよ!」といったものの、別海にはまだその為の設備、例えばバリアフリーの宿泊施設だったり、お風呂だったりとかそういうものが整っていない。そういうものを整備するためには、個人だけではなく公の力が必要なので、役場と協力していきたいですね。

地元の人も知らない自然の遊び方。

この間フローズンパンツっていうのをやってみたんですけど、別海で毎年冬に「フローズンアートツアー」っていうのをやったら面白いんじゃないかな? 洋服やジーパンを凍らせて、かかしのような感じで外に配置して、そういうアートでも人を呼べないかなって。春は春で、牧草地なんかに落ちている鹿のツノをひろったりするイベントだったり。鹿のツノって牧草を刈り取るための機械が間違って取り込むと壊れちゃったりするので、それを掃除する意味にもなるんです。

本当の自然を楽しむイベントって、現地の人もあまりトライしないことかもしれません。こんな寒い日に外に出てジーパン凍らせてたりしていると、町の人からは「何やってんだ?」って言われるでしょうね(笑)。北海道の人は冬に家に閉じこもりがちですけど、外に出てみると楽しいことがいっぱいあるんですよ。

  • 撮影:善甫良太
  • 撮影:善甫良太
  • フローズンパンツ(撮影:善甫良太)
  • 撮影:善甫良太
  • 撮影:善甫良太
  • 撮影:善甫良太

漆黒の闇と完全な静寂。

別海は夜になると、「漆黒の闇」が訪れるんです。「積丹ブルー」があるのなら、さしずめ「別海ブラック」とでも言いましょうか。「自然の中の本当の真っ暗闇ってこういうことか……」って思いますよ。近くの牧場で数年前に東京の高校生をホームステイさせてたことがあったらしいのですが、ここに来て何に一番感動したかと問うと、「夜になったら何も見えないこと」だって。都会だったら常にネオンがありますからね。そう意味では「音」もそうです。車なり機械なりの人工音が全くしない。ここまでの静寂は都会では絶対に体験できません。雪が降ったら雪が周りの音を吸収してさらに静かになります。皆さんは耳が痛いぐらいの静けさってわかりますか?

田舎暮らしの不便さを楽しむ。

別海に来て不便だと思ったことは、水道の凍結です。我が家は水抜きの装置が壊れちゃってるので、特に酷いんです。1日家を空けちゃうと水が出なくなっちゃう。防止策として夜は細〜く水を出しておくようにしています。

もう一つ、不便と言うか、別海が自分の住んでいた関西と違う!と思った点は、国民健康保険料が高いんです。産業が充実していて、お金がない町ではないと思うので、だからこそ福祉にもう少し手厚い町になってほしいと思います。

その他に不便だと感じたことは全くないです。よく小洒落たレストランがあればいいのに……という声も聞きますが、僕にとっては全然必要なくて、自分でご飯作って、あとは4リットルのウイスキーのボトルさえあれば生きていけますから(笑)。

玄関が雪で埋まって出られなくなったこともありますが、私は逆にその厳しさが楽しくてしょうがないんです。スコップ担いでスノーシュー履いて窓から出ればいいだけですから。去年は何回も何回も大雪が降ったじゃないですか。「こりゃあ面白い!」って言っていたら、周りの方たちはブーブー言っていて(笑)。毎年体験しているとうんざりしてしまうかもしれないけど、僕のようにそういうのが楽しめる人もいると思います。それに一回そういう厳しさをこっちで体感していたら、都会に帰った時に、改めて「ああ都会って便利だな〜」って思うかもしれませんね。都会は都会の良さももちろんありますから。立ち食いそばだって食べられますしね(笑)。

寒さも僕は平気な方なんで苦になりませんね。ダウン一枚あれば、過度な防寒は必要ないです。冬は水が凍らない限りストーブを消して寝るんですけど、朝起きるとお布団に氷が張っていたりするんです。山小屋だったらそれが当たり前だし、ストーブつけて寝るなんて贅沢の極みだって思っています(笑)。だから灯油もそれほど消費しません。

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事前に冬の暮らしを体験しておいたほうがいい。

これから別海に移住したいと考えている人へのアドバイスとしては、冬の厳しさと楽しさを体験してから移住したほうがいいと思います。夏場は平均気温18度で快適ですが、冬は別海市街地とここ泉川地区では10℃近くも気温が違いますから。一度そういう厳しい冬を体験して、自信があれば来られたらいいと思います。自信がなければ別海市街地をお勧めします。

これからの人生。

今後の目標は、「別海の西別川・風連川でカヌーガイドをやること」ですね。今は釧路湿原(別海町外)でカヌーガイドをしているのですが、近い将来にはここ別海で、自然と戯れる体験をみなさんにさせてあげたいと思っています。夏になったらここ(自宅脇の旧光進小中学校グラウンド)に人を集めてキャンプファイヤーをやるのも夢ですね。

今は事情があって単身で来ていますが、いずれは夫婦でこちらに移住したいと考えています。妻は武蔵野音大でバイオリンを専攻していた経験があるので、ここで音楽教室をやったり、高齢者を集めてオーケストラを作ったりしたいと話しています。

今後、僕がバリアフリーの体験型の自然観光ができる施設を作れたとしたら、将来的に地元の人に継いで欲しいと思っています。僕が知っている限りですが、北海道のネイチャーガイドって地元出身者が2~3割ぐらいしかいないんです。あとは道外出身者。だからこそ、地元の人が地元の良さを認めて、ガイドという仕事を通じて、地元に人を呼んで飯が食えるんだよって教えてあげたいですね。


2016年2月5日収録
インタビュー:廣田洋一
テキスト・撮影(クレジット表記のないもの):NAGI GRAPHICS

 

 

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