ほらり

村上雄弥:この地域にない物を取り入れる。

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約8分

北海道へ

大学時代サイクリング部に所属していて、京都の舞鶴からフェリーに乗って毎年夏の北海道を友達と一周していました。大学当時から付き合っていた妻も、6年制の獣医学科に通っていて牛に関わる仕事をしたいということでインターンシップなどを活用して何度か北海道に来ていたんですよ。僕もそれにくっついて来たこともあったので、この辺りについては移住する前からなんとなく知っていました。

僕は大学時代主に飲食店でアルバイトしていたんですが、自分が作ったものを食べてお客さんが喜んでくれるのが楽しくて。決して料理が得意だったわけでなくて寧ろ何をするにも不器用な方なんですが、「そんな自分でも誰かを喜ばせられるんだ」って。この頃には「いつか自分の店を持ちたい」と思っていたので、振り返ってみるとアルバイト経験が今の原点だったんでしょう

そして妻は大学卒業後、別海町で就職が決まったので先に移住。

別海町に僕が移住したのは、妻から遅れること一年半。大学卒業後はしばらくサラリーマン生活を送っていたんです。でもそれが「自分には合わないかな」と感じて、長く付き合っていた妻の元に転がりこむ形で移住したようなところですね(笑)。

学生時代の楽しい思い出がある場所でしたし、雰囲気もなんとなくわかっていたのでこれといった不安も抵抗もありませんでした。

「いつか飲食店を開く!」という思いはずっとあったんですが、正直なところ当初はあまり場所にもこだわっていませんでしたし、開業できる環境であればとりあえずはどこでも良いと思っていました。それで一年間のサラリーマンの生活のあと「そっち行く」と連絡して移住をしたんです

新天地でも「やっぱり飲食は楽しい!」

移住当初は中標津町の温泉旅館で1年ほど働き次に「嫁さんがやっているし、自分もやってみよう!」と酪農の仕事を半年ほど。その後は中標津町の「はなまる寿司」にオープンスタッフとして入って5年働きました。

飲食の仕事が好きなのもありますし、開業を目指すにあたって今後に繋がる経験をしたかったんです「この地域で新規開店からやっていくってどんな感じなんだろう」って興味ありました実際、忙しさなどを含め勉強になることがたくさんありました。

それに改めて「やっぱり飲食業って面白いな」って感じることもあって

というのはの僕に、お客さんの寿司を握らせてもらえたんです。それを目の前のお客さんが食べて「あなたが握った寿司が一番美味しい言ってくださったことがあったんです大学時代に感じた「自分が作ったもの食べて喜んでくれること」への喜びを、そこで改めて感じて。大学を卒業してからしばらく飲食を離れていたので、余計に「これがあるから飲食は楽しい!」と思えたのもあったのかも知れませんね。

そうやって働いて5年が経つ頃に、「自分の店を開きたい!!!」って思いがどんどん強くなってきたので、本格的に開業を進めることに。ずっと大好きな讃岐うどん専門店を開こうと決めたんです。

うどんの本場、香川県で本格修行!

学生時代、休みのたびに車で香川県までうどんを食べに出かけていて、好きが講じて手打ちうどん用のセットも持っていたので、一応作ったことはありました。こういうと語弊があるかもしれませんが、その時「あ、捏ねればいいだけか」って思ったんですよ(笑)。そういう意味で自分の中では敷居が低いと思っていたのも、うどん店を開こうと思う一つの理由にでした。ただ、やっぱり店でお客さんに食べてもらうんだったら「美味しい」と言ってもらえるものを作りたいし、食べてもらいたい

開業に向けた準備に入る前に、まずはうどんの作り方を一から学ぶために香川県に修行に行くことにしました。

製麺機メーカーが運営する「うどん学校」という、主に開業を目指す人たちを対象としたものがあるんですが、まずはそこで一週間、うどんづくりの基礎や経営するにあたってのノウハウを座学で学びました。

その後は、実際に会社の直営店に立ってお客様に提供する実践研修へ。研修は一ヶ月コースと一年コースがあって、僕は一年コースを選択しました。僕は研修の身だったんですが、飲食経験ありということで、直営店の店長を任せていただくことになり、新しく入ってくる研修生への指導や、店の切り盛りをしていました。一ヶ月コースの研修生達がどんどん先に卒業・開業していく中、僕は研修を続けているという状況ではありましたが、焦りとかは無く、むしろ楽しんでいました。

研修生というのは開業前にメーカーの製麺機を契約してから研修に入るので、一年間、覚悟を決めた熱い人達と仕事ができたし、そこで出会った人たちとの交流も生まれ、今でも開業の仲間として情報交換をしています。あとちょっと余談なんですけど、僕が店長をしていた直営店、某グルメサイトの香川県内うどん店ランキングで香川県内約600店舗中で15になったんです。もちろん自分の力だけではないんですが、そういうお店で修業できたことで自信もついたし、とても良い経験をさせていただきました。

讃岐うどん専門店「むらかみうどん」開業

うどん学校を卒業してから「むらかみうどん」を開業したのは、2015年の10月。修行を終えて中標津に戻ってきてから1年半を要しました。北海道はどちらかというと蕎麦店が多く、あまりうどんに馴染みがなかったこともあって、当初は「うどん一本は厳しいんじゃないか」と、心配されることが多かったです。それに外部から来た人間が町に飲食店を作るとなると、地元の方から厳しい意見をもらうこともありました。土地探しも難航し、とにかく手当たり次第声をかけて二転三転しながら、ようやくいまの場所に決まったんです。店舗設計は札幌の設計事務所にお願いしました。

地域に合わせて発展していく店作り

いま開業して約3年半ですが、ありがたいことに多くのお客さんが利用してくださっています。

当初は女性をターゲットに」と考えていたんですが、一定の層だけでなく幅広い方々に来ていただくために、バラエティに富んでいるのが良いと思いラインナップを揃えたり、御膳セットみたいなもの作ってみたり。

あと、中標津ではボリュームのあるものを出す飲食店が多いので、たくさん食べていただけるように麺は300gで提供しています。それに合わせてボリューム感のある天ぷらを提供しています。

こんなふうに飲食店をやる上で、地域ごとのニーズにしっかり答えていくことはやっぱり大切だと思っています。ですがうちの店はまだまだ発展途上これからもお客さんを満足させていきたいし、自分も満足できるくらいお客さんをやしたいです

中標津のスピードに置いていかれないように

店をしっかりやっていくのももちろんですけど、これからは町での横のつながりをもっと広げていきたいなとも思っています。中標津町に来て回転寿司屋で働いていた頃は、忙しくて出歩く時間もほとんどなかったから町のことを全然知らなかったんですよね。長く住んでいるのに、地元のお祭りに参加したのもここ最近で。だからここ数年でようやく町に住んでいる人たちのことも知り始めて、「パワーがある人が多い!」と感じています。

去年まで青年会議所に所属していたんですけど、そこでいろんな業界の人達と出会うことができました。当たり前の話ですが、皆さんそれぞれの業界で本気で取り組んでおられる人ばかりですごく稼いでいる人もたくさんいる。常にアンテナを張っていろんな情報を集めている人も多くいます。町に目を向けると、面白い活動をしている人はたくさんいますし、そういう人が近くにいると刺激になりますよね。

青年会議所以外にも食堂組合、町内会などでも役員をやらせてもらっているので、人との繋がりができたのが本当にありがたいです。それを自分の商売にも活かせるように、町にいる人ともっと積極的に関わっていきたいと思っています。

お店に関しては、こっちにないものをどんどん取り入れていきたい。やっぱり都市部に比べたら無いものってたくさんあるじゃないですか。例えばうどんにしても、僕からしたらうどんでしかないけど、それにすごく注目してくれてお客さんがたくさん来てくれる。だからこそ、こっちにないものをどんどん取り入れる価値はあるし、トライする意味はあると思います。

自分から動くことで町に入っていける

中標津はパワーのある人がたくさんいるし、性格的にもオープンな人が多いかな。青年会議所も食堂組合も、よそから来た自分に本当によくしてもらっています。周辺の飲食店ともライバルって感じより、同じ町で商売する「仲間」って感じの方が強いんです。でも待っていてもそういう出会いってなかなか生まれないから、やっぱり自分から動いて興味がある場所にはどんどん顔を出してくのが良いと思います。どちらかというと僕は内向きな性格で、あまり喋るのは得意な方じゃないんですが、僕の場合はその不器用さが逆によかったのかもしれません。みんな一度仲良くなれば町の人達は受け入れて、なにかあったらサポートもしてくれる町だと思います。

お店もまだまだこれからだし、やりたいこともたくさんあります。別海町・中標津町で出来たつながりはこれからもきっと長い付き合いになるでしょうし、ずっとここで「むらかみうどん」を拠点に長くやっていきたいなって思います。

2019年2月20日収録
インタビュー、撮影、テキスト:倉持龍太郎(料理写真の提供は村上雄弥)
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