ほらり

金子勇:「協力隊」というネットワークが持つ可能性。

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約8分

新しい、自分にないものを身につけたかった。

札幌出身です。高校を卒業してからは「すすきの」で仲間と飲食店をオープンしたり、カード会社とフリーランス契約を結んで働いたりと、固定給をもらうのではなくいわゆる「出来高制」の働き方をしてきました。高校を卒業してからなので、かれこれ20年くらいはそうやってきましたね。時間や雇用契約に縛られて働くよりは出来高制のほうがわかりやすいし、自分に合っていたんだと思います。

そんな思いもあって、2、3年前までも家族を連れてキャンピングカーで気ままに移動しながら、ネットで輸入販売の代行をする仕事をフリーランスでやっていました。基本的にはパソコンとネット環境さえあればできる仕事で、いまでいう「テレワーク」みたいな感じですね。ただ、それだけで十分生活できていたんですが、段々と輸入販売自体のハードルが下がってきて。すると誰でも代行を通して輸入販売ができるようになって、生き延びていくには差別化が必要になるわけです。そのときに「50歳、60歳になっても差別化、差別化」って仕事に取り組む生活を繰り返していくのはなぁ…って思って。

じゃあ良い機会だし、自分に無いスキルを身に着けて今後に活かすことを考えるのもいいんじゃないか、ということでコールセンターで働いてみることに。それまでは、電話を「受ける側」でいることが多かったし、正直なところ「かける側」が嫌だったんです(笑)。嫌なことに仕事として向き合うのも、今後の自分にとって良いことだと思ったのもありましたね。地域おこし協力隊の制度は、記憶によればそれと同じ時期にニュースかなにかで見て知ったんです。

厚岸で「椎茸の生産」?

気になっていろいろ見ていくうちに興味を惹かれたのが、「椎茸の生産でまちおこし」とあった厚岸町地域おこし協力隊の募集内容でした。協力隊の活動内容って、多くは情報発信だったりICT技術を活用するというものなんですが、「椎茸の生産に携わる」っていうのが他と違ってなんかおもしろいと思って。だって厚岸のイメージといえば「牡蠣」じゃないですか。海産物の町で「山の幸」というギャップもなんか良いなって。

それに「自分に無いスキル」で言えば、その時やっていたコールセンターもでしたが、生産者もそう。コールセンターは半年くらいやってひととおり身についた手応えがあったので、次のステップとして「作って食っていく」っていうのをやれるか、できるかできないかをやっていて判断してみたいって思ったんです。

厚岸の他にも「夫婦で働ける」などの条件がついた協力隊も何個か受けて内定は頂いたんですよね。でも札幌から車で2時間の距離だったり、夏は暑くて冬はドカ雪という環境だとあまり札幌での生活とあまり変わらない気がして。それで厚岸町を選んだというのもありました。あとは、当時めちゃくちゃ札幌が暑くて涼しいところに行きたいっていうのもありましたね(笑)。

椎茸≠農作物。

着任したのは2017年の9月。厚岸町上尾幌という地区にある「厚岸町きのこ菌床センター」を拠点に置いて、「生産者になるための知識や技術を3年間で身につける」というのがざっくりした活動内容です。

菌床っていうのは、おがくずを固めて椎茸の原木に似せて作ったもので、栄養剤と椎茸菌を挿して椎茸を発生させるものです。

菌床での椎茸栽培は、その菌床に一定期間袋をかぶせて菌の活動を活発にする。その後袋を外し、外気に触れさせたり叩いたりと刺激を与えると、菌のパワーが爆発。すると晴れて僕らが知ってる椎茸の形となって菌床から生えてくると。

厚岸町に来て初めて知ったんですが、「おがくずで固める」って段階では、菌床は農業じゃなくて林業で、椎茸栽培の段階になると農業になるそうです。なので「新規就農」じゃなくて「新規就業」になると。なんだか不思議ですよね(笑)。

あと、外部視察に行ったりしてわかったんですが、椎茸って福祉的な側面が強いんです。特に菌床栽培だと、菌床づくりもそうだし栽培に関しても基本的にルーチンというか、決まった仕事の流れの繰り返しなんですよね。だから障がいを持った方の雇用がしやすいんです。

あと「農作物」に当たらないものなので、栽培した椎茸を農協が買い取るというシステムではない。だから自分たちで作って販路開拓をする作物なんですよね。そのぶん、作り方も流通のさせ方も自分たちで考えられるのでおもしろい作物だと思います。仕事は菌床作りのほか、生産者への菌床の販売、それに余った菌床で作った椎茸を札幌の市場に下ろすということもやっています。もちろん生産に関する勉強もやっていますが、いまの体感では、「新規就業」のための研修であったりセミナーへの参加を含めて、本格的に動き出すのはまだ早いかなぁと。というのも、いま厚岸町には椎茸農家って9件しかないんです。昔はもっとあったらしいんですが、減ってしまった。それには何かしらの原因があるわけで。だからしばらくは、人脈作りであるとか、同じ鉄を踏まないためにはどうしたらいいかってことを調査する段階かなと考えています。

協力隊ネットワーク。

厚岸の協力隊は、月の半分が休みなんです。だから空いてる日に人との繋がりづくりに充てる時間が十分確保できる。そこで僕は個人的なドライブも兼ねて北海道で活動している協力隊に会いに行っています。

椎茸に関する仕事は公務としてやっているというのがあるので、それ以外の部分でも自分のスタイルを確立するのが僕の最終的にやりたいこと。そこで協力隊という制度を活用して、たくさんの人と今のうちに繋がっておこうと思って。

協力隊って全国に5,000人もいる巨大なネットワーク組織なんですよ。先日、芦別市の協力隊の方に会ってきたんですが、彼は隣町の元協力隊とのコラボで開発した商品のネット販売を始めたんです。彼らだけでそれをさらにブランディングしていくことも可能だけど、5,000人もいる協力隊同士でシェアしたり宣伝していったら、おもしろいと思っていて。

僕でいえば、いま椎茸に携わっているわけです。それを持ち歩いて誰かに会うことで外でPRしてくる。もし買ってもらえたら、国のお金で作ったものが町のお金となって地域に落ちる。また、タダで渡す代わりに食レポを書いてもらったり、一緒に写真に移ってSNSなどで発信してもらうことで、厚岸には椎茸があるってことの宣伝にもなる。それがきっかけでまた誰かとつながって輪が広がってったら、協力隊との繋がりでなにかおもしろいことができると思うんです。

協力隊は全国にいるわけですし、そのネットワークを活用してうまく転がしていければ想像を絶するようなことが起こせる気がするんです。それにそれぞれの活動のPRにもなるし、一次生産者に携わっている人であればそれが販路開拓にもなる。休日にやっていることなので公務ではないけれど、町が認めてくれたら大きなものになるんじゃないかと思いますね。

協力隊つながりでいえば、SNS経由で安平町の隊員から連絡があったんですよね。町のイベントに出る「アビレンジャー」をやれる人が足りないから誰か協力してくれる人いないかという内容で。それを知り合いの協力隊に振ったりして。つながりがあるとそういうことができるので楽しいですよ。マッチングみたいで。

もちろん「厚岸の協力隊だから、厚岸で活動してください」っていうは大切だけれど、外に活動を広げることで厚岸に良いことが起きるのであればそれも意味のあることだと思っています。

暑い!そして熱い!厚岸町!

厚岸町上尾幌に住んでみてのギャップは…夏が普通に暑いってことですね(笑)。涼しいと思っていたので。冬もめちゃくちゃ寒いし。

町並みで言えば、自分が考えていた田舎のイメージとは違っていました。車を30分程度運転すれば厚岸町の市街地にも釧路市にも行けるから買い物も特別困らない。

厚岸って田舎のイメージでしたけど、来てみると商売とかに対してとてもアクティヴで熱い人が多くて、いい意味でのギャップがありましたね。「田舎だから田舎なりにやっている」というより「田舎から何かをやる」っていう感じ。若い町民が町には多くないけど、そのぶん60代前半くらいの年齢の方がものすごくアクティブです。

それに不便も思ったよりは無い。確かに過疎地だけれど、光回線もつながるし、自然環境もとても良い。だから家の中での生活に関しては、前に住んでいた札幌と大して変わりません。想像していたのは本当に「北の国から」みたいな、ちょっと極端かもしれませんがそういう本当に厳しいものだったので。ネットショッピングだって、アマゾンも楽天も届きますし。

ただ、都市部から来るのであれば車だけは絶対に確保しなきゃいけない。移動は基本的に自転車や徒歩じゃきかない距離ですからね。

あえて不便さを言うならば、ガソリンスタンドが終わる時間の早さ。夜に「やばいもうガソリンがない!」ってなっても、入れられないのがちょっとあれかな(笑)。

目標や意思を持っていると移住生活は楽しくなる。

住んでいて思うのは、自分のやりたいことが何で、そのためには何が必要かってことをわかっていればやっていけるということ。それが僕の場合はネット回線であったり、地域おこし協力隊であったわけで。「悠々自適に暮らしたい」というよりは、そういうなにかしらの意思や目標を持って移住するほうが、楽しく暮らしていけると思います。

任期が終わっても厚岸に関わって、椎茸で町おこしに関わりたいですね。それを協力隊ネットワークで販売して、PRにつなげていきたい。生産者としてやっていくかどうかはまだ判断の段階ですが、厚岸で椎茸を通して知り合った方々とのつながりを活かして、いろんなことにチャレンジしていけたらと思います。

2018年7月2日収録
インタビュー、撮影、テキスト:倉持龍太郎
提供写真:金子勇
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