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兵頭剛:自分が楽しめればどこだって「住めば都」

プロフィール 兵頭剛 /29歳 / 愛媛県出身 / 厚岸町在住 / 2015年移住 / 兵頭牧場・代表

いろんな世界を見たくて自転車放浪。

厚岸に移住してきたのは約2年前です。生まれ育ったのは愛媛県の南予地域の西予市で、実家も牛飼いでした。愛媛だとミカンを想像する人が多いと思うんですけど、うちの町は酪農の町なんですよ。僕も小さい頃は乳搾りを手伝ったりしてましたね。でも、自分が酪農をやる事になるだなんて全く思ってませんでした。

子供の頃の夢は美容師でした。中学生の頃に、近所の床屋さんのお兄ちゃんを見て「かっこいい」って思って。高校卒業後は美容師になるために大阪の専門学校に通って、そのまま大阪の美容室に就職。お客さんと話すのがすごく楽しくって仕事が大好きでしたね。それこそ天職だなぁって思うくらいに。

でもある時、ふと思ったんですよ。「このまま一生美容師として生きていく」って想像したら「なんか面白くないなぁ」って。

人間関係がとか、この先が不安とかじゃなく「もっといろんなことをやってみたい」と思ったんでしょうね。それで漠然と旅をしてみたいって思って。父親が、昔、道路が舗装もされてない九州を自転車で一周したって話を聞いてたからかもしれません。それで「よし、じゃあ俺は日本を一周しよう!」って思い立って、就職して一年も立たない秋頃に退職しました。退職理由は素直に「旅がしたいんで辞めます」。親子揃って放浪癖があるんですかね(笑)。

思いもよらない出会い。

退職後は、ひとまず軍資金を稼ぐために1年くらい居酒屋とパチンコ屋でアルバイト。旅は自転車で大阪を出発して、東京へ。そこから北上。九月くらいに北海道に辿り着いた頃は疲れ切ってるしお金は無くなっちゃうしで(笑)。千歳に知り合いがいるので、そこで少し世話になりながら今度は軍資金を稼ぐためのバイト探し。せっかく北海道にいるんだからと、スキー場なんかのリゾートバイトをやりたかったんですけど、そういうバイトは人気で受からなくって。そこで違うバイトを探していて、たまたま見つかったのが浜中の牧場の仕事でした。

北海道の冬は楽しい。

当初は牧場の仕事をやりたかったわけでも、浜中に来たかったわけでもなくって。「実家が牛飼いだったから自分もやってみよう」ってわけでもなく、本当に他に選択肢が無かったからそこを選ぶほかなかっただけでした。

でも、いざ来てみたら見事に冬の北海道にハマっちゃいました(笑)。何が楽しかったって、スノーモービルですよ。雪原の上をダーっと走っていくのが楽しくって気持ち良くって。あとは釣り。もともと好きだったのもあるけど、こっちではでっかい魚が釣れるし。

あんなにたくさんの雪は見たことが無かったし、刺すような寒さも初めて。寒さですら楽しかったです。バイト仲間に同年代がいたのも大きかったかな。

自分が田舎出身なのもあって、田舎生活に抵抗は全くありませんでした。どこも「住めば都」だと思いますしね。大阪にいた頃は大阪が楽しかったし、北海道にいれば北海道が楽しい。自分が楽しめるかどうかだと思います。

冬を越して牧場を出たのは5月ごろ。今度は岩手へ向かいました。震災直後だったんですけど、知り合いが心配で行ってみることにしたんです。まだまだ瓦礫もあったし、川には車が漂ってる状況。1ヶ月くらいお手伝いさせてもらいました。その後は日本海側から南下して中部、九州へ。沖縄はフェリー代が高くて諦めました(笑)。

実家をゴールにして、到着したのは出発してからちょうど一年経った頃。思い返せば、黙々とペダルを漕ぐだけで誰とも話さない日もありましたね。そんな中で「頑張ってるね!」って声をかけてくれる人や、飲み物を買ってくれる人がたまにいて。そういう、人との出会いや優しさがすごく嬉しかったのを覚えています。だから、この辺でも自転車や徒歩で旅をしてる人を見たら、今度は自分が彼らに声をかけるんですよ。してもらって嬉しかったことは、自分が他の誰かに返していくことで恩返しになるのかな、なんて思って。

就農に向けて。

浜中を出発する頃には、「絶対ここに戻ってくるぞ」って決めてました。旅が終わって、仮に大阪でまた美容師をやったとしても、上にあがって来ている後輩にペコペコするのは嫌だったし(笑)。何をやるかって言ったら酪農だなとも決まっていましたね。農協で見た研修牧場のポスターに「すぐ社長になれます」って書いてあるのを見て、「それいいな」って思って(笑)。

ちなみに嫁さんと付き合ったのは、旅が終わってまた1年くらい大阪で働いていた時。もともとアルバイト仲間で、旅に出る前から知り合いだったんですよ。その時に付き合ってたわけじゃないから、旅の帰りを待ってくれてたって話じゃないですけどね(笑)。

奥様:それまで全然連絡も無かったのに、「元気?」みたいな感じで急に連絡が来たんですよ(笑)。それからまた会うようになって付き合って。いずれ北海道に行くことも、酪農をやるつもりだってことも聞いてました。どんなものか想像もつきませんでしたよ。私はずっと大阪で暮らしてきてたから、北海道も行った事なかったですし。かと言って抵抗があったとまではいかなかったですね。

付き合ってちょうど一年で結婚しました。そのすぐ後に嫁さんのお腹に子供がいることがわかって。でも研修牧場には一緒に来てくれました。だんだんお腹も大きくなって、つわりもひどくなっていく中、一生懸命に作業に取り組んでくれてて。その時に、改めて「強い人だな」とも思ったし、同時に「あぁこの人と一緒になって良かった」って本当に思いました。出産直前まで研修牧場にいて、いよいよ産まれるなという時期になってからは、両親もいる大阪の病院へ移りました。娘が生まれて、体調が整うまでは大阪にいることに。

たしか7ヶ月くらいは離れてたと思います。その間、研修牧場では僕一人だからさみしかった…(笑)。でも嫁さんからしたら、急に見知らぬ土地に来て、牛の世話して、お腹に子供がいて。常に緊張感でいっぱいだったから出産を終えて羽を伸ばしたかったんでしょうね。

でも、戻って来てからは赤ん坊おぶりながら搾乳をやってくれました。やっぱ強い人なんですよ、僕の嫁さんて。

無事研修が終わって、就農したのは厚岸の若松地区にある離農した農家さんの牧場。厚岸での新規就農者はうちで二軒目だったそうです。牧場での仕事は毎日やることがあって忙しいけど、楽しいですね。分配した餌をガツガツ食べてる牛を見てると、なんていうか、「あぁ~」って(笑)。嬉しくなるんですかね。逆に嫌いな作業は搾乳です。時間はかかるし一番手間がかかるから面倒なんですよ。それが食い扶持だからもちろんちゃんとやってますけどね(笑)。

「住めば都」も自分次第。

この辺りは後継者が戻ってきてる牧場が結構あって、若い人もそれなりにいるので過ごしやすいですね。周りの農家のみなさんとは、僕が来た当初から仲良くして頂いています。まず歓迎会を開いてくれて、そのあとは牧場に牛が入ったお祝い。さらに牛初出荷の時にもお祝いしてもらって。仕事が終わった後に皆で飲みに出かけたり、誰かの家で焼き肉をやったりもします。そこで飲んで食って騒いで大笑いして。それがストレスの発散にもなってます。

土地柄が肌に合ってるってこともあるかもしれないけれど、この辺では普通に人と話せれば問題ないと思いますね。社交性があれば。逆をいえば、牧場以外ほとんど何もない環境だからそれだけはできた方が良い。なにかあった時に繋がりがある無いじゃ大違いだと思いますし。住んでいて嫌なことは…僕は特に無いですね。強いて言うなら、ちょっと飲みに行くっていうのができない点かな。車じゃないと町まで行けないから、お酒飲むとそのまま帰ってこれないんですよ。「ちょっと一杯」ができないのは不便かな。

でもこっちでの生活はやっぱり楽しいです。夏の間は仕事ばっかりしてるけど、冬になったらそれこそスノーモービルに乗ったり、ウインタースポーツを楽しんでます。

ただ、嫁さんは買い物がちょっと大変みたい。スーパー行くにもそこそこの距離を車で行かなくちゃいけないし、冬は雪があるからさらに大変ですよね。また牧場から厚岸の保育所までが遠くて…。送迎の往復だけで一日80キロくらいは走ってると思います。

ちなみに僕の父親はもここの環境が気に入っちゃって、移住してきちゃいました(笑)。今は一緒に牧場の作業をやってもらっています。

こっちに来て変わった事と言えば…服装を気にしなくなりましたね(笑)。都会みたいに出かければ人がいるって環境じゃないので、誰かに見られてるって感覚もないし、会うのも基本的にはいつも同じ人達ですからね(笑)。

趣味に関しては増えるより、むしろ減っていって。そのぶん仕事や生活の中で使うものにお金をかけるようになりましたね。必要なものに時間とお金をかけるようになるので、削ぎ落とされていった感じです。

仕事も生活も「楽しむ」ことにこだわる。

牧場を経営するにあたって、自分がこだわってるのは「楽しむ」こと。それとあまり色々と難しく考えない。経営者としてはダメな考えなのかもしれませんけど、先を色々と考えすぎて立ち止まってしまうより、いまを楽しんで生きる方が大切だと思います。もちろん面倒なことだってたくさんあるけど、とにかく自分のやってることを楽しむのがが一番。

今は自分の後を継いで欲しいとは思ってないです。年明けに第三子の女の子が産まれる予定なんですけど、子供達は自分のやりたいことをやってくれれば良いと思ってます。牧場は将来やりたいと思えばやればいいし、自分の代で終わったら土地を売ってしまえばいい。そもそも僕の事だから、また思い立ってどこかに行こうって気になるかもわからないし(笑)。何とかなるし、なるようになると思ってます。

どっかで「大丈夫だろう」って楽観的になるのも大事なんじゃないですかね。

やらずに終わらせるなんてもったいない!

牧場を始めると他のことが全然できなくなっちゃうから、まだ自由なうちにいろんな事を経験して楽しんだ方が良いと思います。でも、酪農をやろうか迷ってる人に敢えてアドバイスするならば、「まずはやってみればいい」。やってダメならまた次を探せばいいんだから。だからじゃないけど、研修牧場の存在って大きいと思ってて。実際に僕らが研修牧場にいた頃に、辞めて行った夫婦もいました。でもそれがまた一つの人生の経験で、どこかで活きてくるんだと思う。一度きりの人生だし、興味のあることをやらずに終わらせてしまうのはもったいないですよ?


2017年9月収録
インタビュー、テキスト、撮影:倉持龍太郎

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